Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “秋の夜長に”
 

例えば、いつの間にか朝晩はもう一枚衣紋が要るなと感じたり、
たとえば、いつの間にか遠景の緑が薄まってたり。
例えば、いつの間にか陽の暮れるのが早まっていたり、
たとえば、いつの間にか…

  足元から伸びる陰や 風の気配の先に、
  誰かの姿、視線で追って確かめたくなったり……




      ◇◇◇


陽のあるうちはそれでもまだ、体を動かすと汗がにじむ。
木陰をくぐって届く風の涼しさに、息をつくのが心地よく。
収穫やら冬支度の始めの初めなんぞに手をつけるには持って来いな、
そんな頃合いに入ったらしい。

 「そんでも、ススキの穂が開くにはまだ微妙に早いがの。」

銀杏の色づきももちょっと先だし、と、
蜥蜴の総帥殿が口にすれば、

 「ああ、くうがの、
  ギンナンの実、あぎょんが沢山くれることになってると言うておったぞ。」
 「……ああ、そうかよ#」←あ

あぎょん、もとえ阿含というのは、裏山に巣食う小憎らしい蛇神の大妖。
はっきりくっきり敵対している訳ではないが、
実力差は歴然としているからこそと思われて。
そんなこんなで余裕錫々な態なのが、
ただでさえ鼻につく剛の者。
それへと何故だか、彼らの可愛がっている天狐の和子が懐きまくり。
そんな微妙な相性をつつくよに、
くうが どれほど懐いておるかを持ち出せば、
途端にそれはありありと怒り出すこと判っていながら、
わざとに言い出す意地悪も相変わらずなら。
術師が面白がってのこと、
故意に持ち出したとまでは気づいていないか、

 「どうした?」
 「別に。」

憤然としつつも“実は…”との理由
(ワケ)までは言わぬ、
微妙な意地の張りようが、
ますますのこと蛭魔を笑わせてしまっており。

 「…何だよ。」

こっちの機嫌が悪いの、何がそうまで可笑しいか。
当然のことだろう、
憮然とした声を立てるのへ、

 「こっちこそ“別に”だ。」

肉薄な口許を にいと引き上げてのほころばせ、
人が悪そうな笑い方する陰陽師の青年へ。
むうとますます、精悍な眉をしかめた葉柱だったが、

 「……。」

この蛭魔が、こんな風な物言いをして、人を煽るのはいつものこと。
侍従であっても、いやさ、自らの配下としているのはそれだからこそのこと、
それなりの膂力なり胆力なりという、破壊力を持ち合わす葉柱が相手でも、
本気で怒ったとて さして動じぬだろう豪胆な輩であり。
そしてそして、

 “まったくもって癪ではあるが。”

そんな豪傑なればこそ、
葉柱の側でも悠然としたまま、
主人へのそれだのに、不遜な態度を取り続けておれるのやも知れぬ。
かちんと来ぬ訳じゃあない、
現に彼奴を喜ばせるような短気な反応だって見せもするが、
気概の芯のところでは、
たとえば呼吸のようなものや、相手の心根が判り合えていると思うし。
それが実はこっちからだけの代物であっても特に構いはしない。
思っていたような奴ではないならないで、
見込み違いをした自分が悪いのであって、
危地に陥れば、自力で何とかすりゃあいいだけのこと。

  ただ

こちらからは、
彼の どんな窮地へでも助けに飛んでゆくだろと、
これもまた自然な理
(ことわり)のようなものとして、
思っている葉柱でもあって。

  “だってよ。”

  だって こいつってば、
  素直じゃねぇし、味方も少ないし。
  まま、滅多なことじゃあ窮地に何ぞ陥らねぇ、
  途轍もない桁で 凄い奴でもあっけどよ。

  「………。」

  それが人でも邪妖でも…神様でも、
  何でもかんでも取りそろってる奴なんていねぇ。
  大きな力を出せる奴は細かいことが出来ねぇし、
  勧善懲悪の使徒には、どんなささやかな嘘も大罪に見えるよに。

  「……なあ。」

  怖いものなんてないと常々胸張ってる野郎だが。
  どんな向かい風の中でも敢然と立っていられる、
  孤高な佇まいも似合いな奴ではあっけどよ。
  たまにゃあ、その、
  甘えたいとか羽伸ばしがしたいとか、
  そんな風に思うことだってあろうから。


傲慢さも我儘も、すべてをくるむ懐ろの暖かさ。
離れがたくて居続けるのは、
そんなことへと縋ってじゃあなくて、
人肌の恋しい頃合いだからってだけでもいいからさ。
座椅子の代わり、寝椅子の代わり、
凭れ切ったそのまま、味な眸をして気心誘うは、
出来れば…自分を相手にだけと限ってほしいな、なんて。
肌寒さから引っ張り出した、厚絹の袙
(あこめ)の中、
その痩躯を泳がせ半分にし、
こちらの膝へと掻い込まれたままでいてくれる御主へと、
こそり思っておいでの、蟲妖の総帥様であるらしい。


  そうまで へりくだらなくたって、
  術師殿の白い手は、
  あなたの背中、かいがら骨まで回されているし、
  月の子かと思わすような、金の髪載せた小さな頭は、
  肩口へ ことりと載せられているのにね。
  天穹では母のよな望月が、
  睦まじいことよと頬笑んでござった秋の宵……。





  〜Fine〜  09.10.18.


  *朝晩と昼のうちとの気温差はまだまだ結構なものですが、
   それでも日に日に秋めいてゆきますね。
   今年は特に、風邪には注意せねばなりませぬが、
   秋の夜長はついつい、夜更かししてしまうから困りもの。
   ビデオ観まくりの今日このごろな煽りから、
   更新がズレまくっててすいませんです。
(まったくだ)

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